外来の裏話

カルテNo,51 エイズの患者のお話

患者
26才の外国人男性
主訴
体がだるい
ストーリー
来日3年目の東南アジア系の外国人が来院し,つらそうに「I want check up my body , Doctor!」と言う.「What is your problem , sir ?」と尋ねると 何となく不吉な予感がし,Aidsのテストを本人の了解のもと,念のため行うことに. 数日後,陽性であったため,本人への告知を迷ったが日本に身寄りがないこと,本人は成人であることからつらい告知を行うことにした. 「Oh! my god!」本人のショクは隠しきれない様子. Aidsの病気について説明をし,不法滞在であったため,帰国後の治療を勧めた. 数日後,「Doctor,thank you very much.」と帰国の挨拶に来てくれた. 明るい笑顔が印象的であった.
考察
医師の仕事は基本的には困った人の世話である. エイズの患者さんを門前払いする医療機関が報道されたとき,何と恥ずかしいことがと思った. 愛情と誠実をもって社会の差別に立ち向かう勇気が欲しかったのである. この患者にその償いをして上げるつもりで誠心誠意をもって対処したのである. 病気は汚い,移る,恐いのは当たり前. 人の世話は簡単なものではない. あのヒポクラテスの尊い宣言を我々はもう一度読み直そうではないか? これから自分の命がある限り,どんなに恐い病気でも私は立ち向かう. 苦しむ人がいる限り. これは医師としてはあまりにも当たり前の事ではないか? あの青年の診察からもう10年.今頃どうしているのだろうか?