外来の裏話

カルテNo,46 捜査権と守秘義務

患者
23才の営業マン
主訴
頭が痛い,首が痛い,足が痛い
ストーリー
昨日の昼,通りがかりの男数人(ライバルの会社員)に因縁を付けられ殴る蹴るの暴行を受け,ほぼ全身の打撲の状態で来院. 幸い,骨折などの所見はなく,いわゆるむち打ち同様の治癒経過をたどると判断し,投薬と理学療法を開始した. 初診時に診断書の提出を本人より求められ,臨床症状から全治3週間と診断した. 頭と足の痛みは約2週間後には改善したものの,予想通り,首の痛みはなかなか改善しない. 後日,検事さんより病状について問い合わせがあったため,守秘義務があるため本人の同意書が必要であると説明しても捜査権を理由に納得してもらえない. 現在治療中の患者さんのカルテを郵送して欲しいとも言われた.
考察
この様に自分の患者さんが時々裁判に巻き込まれることはある. 医師として裁判に協力したいことは当然であるが,患者さんの守秘義務は守りたい. 本人の了解が無ければ,いかなる第三者にも病状については言えない. 裁判は証拠主義で行われるので主治医に電話で聞いたとも書けないのだろう. 本当に検事かも電話では分からないし,相手(加害者)側の弁護士さんかも知れない. 本件は本人の了解が必要,文書による依頼と回答とする,診断書代金を国に請求する. 以上の三つの条件を出し,後日裁判所から依頼書が送られ,円満解決した. 民事,刑事に関わらず裁判所所定の同意書と診断書はあっても良いと思われる. 捜査権よりも守秘義務が優先される事を法律の先生方は分かっていただきたい. この裏話を書くにあたり,本人から匿名を条件に了解を得ていることは言うまでもない. 医師は自分の担当の患者さんの強い見方なのです. 医師の仕事は病んでいる人が早く回復する事を治療を通じ,実践すべきであって, その妨げとなる要因を拒むのは当然の権利である.