外来の裏話

カルテNo,26 地下鉄サリン中毒の症例

患者
47才管理職男性
主訴
眼が見えない
ストーリー
平成7年某月某日朝 「先生,大変です.地下鉄の駅から降りたら急に眼が見えません」 診察すると縮瞳している「全く見えないのではなく,暗く見えると言うことですね?」 「はい,そうです」待合室のテレビのニュ-スで地下鉄サリン事件を知っていたので事情を説明し,落ち着かせる. アトロピン点眼にて徐々に視力が回復した事,他の合併がない事を確認し,帰宅させた. 翌日,今度はこの男性と全く関係のない26才の女性から私も見えないと言って来院した.診察上,全く異常を認めずマスコミによる連鎖反応と診断した. 通勤途中の労災と認定し,後日,本人から迷惑な労災でしたとお礼の電話が.
考察
もし,待合室にテレビがなかったらこの珍しい症例を前に僕は慌てたかも知れない. 当院の立地が霞ヶ関に通じる地下鉄の駅前でなかったら,経験できなかったかも知れない. 色々と考えさせられる症例であった. 私たちはサリン中毒の治療は習わなかった. 全くとんでも無い事件が起きたのである. 医学的にも常識的にも考えられない症例が経験出来たが,素直には喜べない. 事件の犯人は捕まっているのに事件が起きるまで放置した行政の責任者は問われない. 宗教法人の監督,管理責任,警察関連などである. さらに恐いのはその事実に気がつかない国民とマスコミである. 言い換えれば,この種の事件は日本ではまだ起きうる. 災害時の危機管理は関西大地震の時,エイズの時と同様自分たちで管理しなければならない. 国が何をしてくれるかを考える前に自分たちで身を守らなくてはならない. 税金を払う側からすれば残念ですが,色々言う前に備えあれば憂いなしの方が早い. 総理大臣になったら根こそぎ変えてしまいますけど......医学部でしたから. 医師会の兼ね合いでまた自民党?